為替レートは、インターバンク市場の需要と供給のバランスにより決まります。インターバンク市場は銀行同士が取引する市場です。銀行の間にブローカー(仲介会社)が入ることもあります。インターバンク市場の需要と供給の元になる取引は、大きく分けると実需取引、投機的取引、中央銀行の介入です。実需取引は、買い切りまたは売り切りの長期的な為替レートの変動要因です。投機的取引は、買い戻し付きまたは売り戻し付きの短期的な為替レートの変動要因です。中央銀行の介入は、タイミングがよいと長期的な為替レートの変動要因ですが、タイミングが悪いと短期的な為替レートの変動要因です。
インターバンク市場の需給の元になる取引 | 為替レートへの影響 | |||
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実需取引 | 貿易取引 | 輸入 | 自国通貨安 | |
輸出 | 自国通貨高 | |||
資本取引(為替ヘッジなし) | 証券投資 | 対外証券投資 | 自国通貨安 | |
対内証券投資 | 自国通貨高 | |||
直接投資(買収資金を自国通貨で買った場合) | 対外直接投資 | 自国通貨安 | ||
対内直接投資 | 自国通貨高 | |||
投機的取引 | 自国通貨安で為替差益を狙う取引 | 自国通貨安 | ||
自国通貨高で為替差益を狙う取引 | 自国通貨高 | |||
中央銀行の介入 | 自国通貨安の金融政策 | 自国通貨安 | ||
自国通貨高の金融政策 | 自国通貨高 |
実需取引
実需取引は貿易取引と資本取引が中心です。実需であっても通貨が同じ国同士の取引は為替レートの変動要因になりません。例えば、ユーロ採用国同士、米ドル採用国同士の取引は為替レートの変動要因ではありません。
貿易取引
貿易取引は買い切りまたは売り切りです。そのため、長期的な為替レートの変動要因です。貿易黒字の国は自国通貨高、貿易赤字の国は自国通貨安の変動要因です。輸出入企業は採算が合っていればよいので、トレンドとは関係なく売買します。
貿易取引は輸出と輸入があります。輸出は国内の商品を国外に売って外貨を得ます。最終的には外貨で自国通貨を買うので自国通貨高要因です。輸出企業は決算が近くなると外貨で自国通貨を買います。輸入は自国通貨で国外の商品を買います。自国通貨で外貨を買うので自国通貨安要因です。輸入企業は支払日に自国通貨で外貨を買います。
資本取引
資本取引は為替リスクをヘッジする場合は為替レートの変動要因になりません。為替リスクをヘッジしない場合は為替レートの変動要因です。資本取引は買い戻し付き、売り戻し付きです。投資期間が長い場合は長期的な為替レートの変動要因です。投資期間が短い場合は短期的な為替レートの変動要因です。資本取引は間接投資と直接投資があります。
間接投資
間接投資は証券投資が中心です。証券投資は株式、債券、投資信託、ETF、REIT、先物取引などです。証券投資は対外証券投資と対内証券投資があります。
対外証券投資は自国通貨で国外の証券を買います。自国通貨で外貨を買うので自国通貨安要因です。投資を回収するときは外貨で自国通貨を買うので自国通貨高要因です。日本の機関投資家は3月決算が多く、一般的には4月、5月に買って、決算前までに売ります。
対内証券投資は外貨で国内の証券を買います。外貨で自国通貨を買うので自国通貨高要因です。投資を回収するときは自国通貨で外貨を買うので自国通貨安要因です。海外の機関投資家は12月決算が多く、一般的には1月に買って、決算前までに売ります。
直接投資
直接投資とは企業が国外の企業を買収、工場を建設することなどをいいます。投資期間は長期間です。直接投資は対外直接投資と対内直接投資があります。対外直接投資は自国通貨で国外の資産を買います。自国通貨で外貨を買うので自国通貨安要因です。対内直接投資は外貨で国内の資産を買います。外貨で自国通貨を買うので自国通貨高要因です。
対外直接投資の買収資金の調達方法は以下の通りです。
- 自国通貨で外貨を買う
- 現地で外貨を借りる
- 株式交換する
➀は自国通貨安要因です。➁は現地で借りた外貨でそのまま支払うので為替レートの変動要因ではありません。➂は買収企業の株式で支払うので為替レートの変動要因ではありません。
上記の➀、➁、➂が明確でなく、企業買収のニュースだけで為替レートが大きく変動することがあります。その後に企業買収が白紙になるか、➁または➂になると為替レートが急変動するので注意が必要です。
投機的取引
投機的取引は為替差益が目的です。資本取引と同様に買い戻し付き、売り戻し付きです。投機は資本取引と違って短期の売買が多いです。そのため、短期的な為替レートの変動要因です。投機は銀行、機関投資家、ヘッジファンド、個人投資家が中心です。
投機は為替レートが一方向に大きく変動すると多くの人がその動きを追いかけるのでさらに大きな変動になります。この為替レートの一方向への動きはトレンドを形成します。トレンドは規則的な値動きをします。規則的な値動きはチャート分析をすると確認できます。
中央銀行の介入
中央銀行は為替レートの水準が適正でないと判断して介入することがあります。一般的には中央銀行の介入は為替レートの大きな変動要因です。しかし、外国為替市場全体の取引金額は大きいので、介入するタイミングがよくないと一時的な変動要因で終わってしまいます。中央銀行が自国通貨売りの介入をした場合、外貨準備高が増えます。外貨準備高は米国債などで運用されます。
為替レートの水準は自国の経済だけでなく、他国の経済にも影響を与えます。過去には自国の経済を優先して為替レートの水準を決め、他国の反発にあったことがあります。その反省から、他国の合意の上で介入や金融政策を決めることが一般的になりました。為替レートの介入姿勢は各国の経済構造により異なります。例えば、日本は資源に乏しく、付加価値のある商品を輸出することで経済基盤を築いてきました。輸出は円安になると稼いだ外貨の値段が高くなるので有利です。逆に円高になると稼いだ外貨の値段が低くなるので不利です。そのため、日本の中央銀行は行き過ぎた円高になると介入しやすいです。